読書日記 2009年

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ぼくには数字が風景に見える ダニエル・タメット 講談社 ★★★★☆

著者は、アスペルガー症候群かつサヴァン症候群で共感覚をもち、おまけにゲイという、人類の中でも相当にレアな存在である。

本書の中で一番興味深いのは、円周率22,514桁を風景として記憶するという下りである。762~767桁まで、9が連続して6個出現するというのは知らなかった。Feynman pointと呼ばれるこの場所は、紺色の光の分厚い縁取りの見え、とても美しい風景なのだという。
著者は、数字に色ばかりでなく形や質感までもを伴って知覚されるという、特殊な共感覚の持ち主である。
ちなみに、数字→色の共感覚は、私も幼い頃は持っていたような気がする(残念ながら今は失われてしまった)。7は焦茶色だったと思う。6までは明るい色だが、7から先は急に色調が暗くなる。だから、7以上は10に近い数として、6以下の数とは違う世界のいるのだと思っていた。

ところで、歴代の円周率記憶の世界記録はずっと日本人が保持している。現在の世界記録は原口證さんの10万桁であるが、これが60歳を過ぎてから樹立された記録であるというのがすごい。我々にはお馴染みの語呂合わせによるものであるが、この語呂合わせの記憶法が日本語以外の言語圏にもあるのかどうか、私は知らない。数字に何通りもの読み方がある、日本語ならではのように思う。

同じサヴァンであり、映画「レインマン」のモデルにもなった、キム・ピークと出会う場面は感動的である。キム・ピークは、9000冊の書物を一字一句違わず記憶しているという。彼ならば、円周率も100万桁くらいは軽いのはないだろうか?

数字が風景に見えるというのは理解できなくもないが、アイスランド語を1週間でマスターするという話になると、なぜそんなことが可能なのかサッパリ分からない。どうやら、単語もアルファベットを視覚化して、共感覚的に覚えているようである。
dogが犬の形に見えるというのは傑作である。そう言われてみれば、catもだんだん猫に見えてきたぞ。しかし、いくら単語を記憶したところで、ネイティブの人と会話をするというのは別次元の話のように思うのだが。

著者のダニエル・タメットは、サヴァンでありながら、それがいかにして可能であるかを普通の言葉で説明できるという点で、稀有な人物である。だから、その点をもっと詳細に解説して欲しかった。(09/06/28 読了)

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