読書日記 2009年

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栄光の岩壁(上)(下) 新田次郎 新潮文庫 ★★★★☆

17歳の時、冬の八ヶ岳で遭難して凍傷を負い、両足全ての指を切断したものの、不屈の精神でマッターホルン北壁日本人初登攀を果たした「五文足のアルピニスト」、芳野満彦をモデルとした小説。
小説は、1965年、芳野満彦(小説中の岳彦)と渡部恆明(広)がマッターホルン北壁登頂に成功するところで終わっているが、その1週間後、渡部恆明は高田光政とザイルを組んでアイガー北壁日本人初登攀に挑み、劇的な死を遂げてしまう。

運動具メーカーに入社し、山の記録映画を持って全国を行脚したとか、その最初に訪れた水戸で、運動具店の店主の女性と恋に落ち、婿入りしたというのは実話であるらしい。全国行脚に同行する、プロスキーヤーを目指す(小説中の)田浦雄三郎は、いうまでもなく、三浦雄一郎である。
新田次郎の小説に出てくる女性はいまいちリアリティがないような気がするのだが、この小説が実話に基づいていることを考えれば、昭和30年代の女性は実際にこういう風だったのかもしれない。もっとも、悪役として登場する春男は、フィクションであろう。

スイスアルプスへ向かう飛行機の中でこの小説を読み始めたが、読み終えたのはそれから2ヶ月も後だった。当時は、今とは比べものにならないほど渡欧するのは大変だっただろう。でも、二人が初めてヨーロッパのアルプスに出会うときの高揚感、「山が待っている」という感じは、実によく分かるなぁ。
新田次郎の考える、真のアルピニストに不可欠な四つの条件とは──健康な肉体、鞏固な意志、謙虚であること、そして、情緒を備えていること。私もそういう人間になりたい。(09/10/20 読了)

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