読書日記 2012年

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超常現象をなぜ信じるのか―思い込みを生む「体験」のあやうさ 菊池聡 講談社ブルーバックス ★★★★☆

UFO、心霊現象、血液型性格診断、予知夢(虫の知らせ)。そういう、オカルト・疑似科学的な現象をひっくるめて、ここでは「不思議現象」と呼ぶ。本書で繰り返し述べられていることであるが、著者は、こういった不思議現象の存在を否定しているのではない。その可能性を否定することは、原理的にできない。そのため、不思議現象について議論しようとすると、たいてい水掛け論に陥る。

不思議現象が科学的に認められない訳は、それが科学的知識に反しているからではない。そうではなく、信頼性と妥当性が欠けているからである。(信頼性と妥当性が何か分からない人は、本書を読んで欲しい。)まずはそのことを認めた上で、では、人々はなぜ不思議現象を信じるのかを考えましょう、というのが本書のスタンスである。

「信じる心」がなぜ生まれるのか?それは、一言で言えば、「認知のバイアス」によるものである。本書では、認知のプロセスを「知覚」「記憶」「思考」に分け、各段階で起きるバイアスがどのようにして誤った信念を生みだすかを分析している。

人は、自分が体験したことは、一番信頼できると思っている。ところが、ヒトの知覚システムは、しばしば誤りを犯すようにできているのだ。実在しないUFOや心霊現象が「見える」のは、多くの場合、単純に「知覚のエラー」(見間違え)によって説明できる。また、体験していないことを体験したかのように思い込むことがよくある(「記憶のエラー」)。誘導尋問が可能であることが示すように、記憶は容易に変容されうる。目撃者の証言なんか、あてにならないのだ。そのことを示す、数多くの心理学的な実験がある。

3番目は、思考の段階で入り込む「確証バイアス」である。周りを見渡してみれば、なるほど「A型で几帳面」な人を何人も挙げることができる。そのため、血液型性格診断(や、すべての占いの類)は当たるような気がする。しかしそれでは、「A型」と「几帳面」の間の関連性を示したことにはならない。実際には、「A型だけど几帳面ではない」「A型じゃないけど几帳面」「A型じゃなくて几帳面でない」の数も調べなければならない。要は、統計学を勉強しなさいということだ。ただ、この確証バイアスに関しては、統計学的な思考法を身につければ防ぐことができる。それに対し、知覚と記憶のエラーはヒトの生理的システムに依存するため、避けることは難しい。

本書は平易な日本語で書かれており、とても読み易い。1998年の出版だからもう15年も前になるが、古さを感じさせない。この手の本としては、かなりのロングセラーと言える。(12/06/11読了 13/02/10更新)

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