読書日記 2013年

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多民族国家 中国 王柯 岩波新書 ★★☆☆☆

漢民族の手による、漢民族のための、共産党による中国支配を正当化する本。曰く、中国では55の少数民族と漢民族は平等であり、むしろ少数民族の方が優遇されており、そのため少数民族の人口は増加している。現在の中国政府は、多民族国家としての伝統を生かし、その少数民族政策は成功しているように見える。亡命政府をもつチベットの問題や、一部のウイグル人によるテロ組織の存在は例外にすぎない。「中華」とは、そもそも(野蛮な)周辺の異民族の存在を前提としているのである・・・。よくもまぁ臆面もなく、これだけコテコテの自民族中心史観を展開できるものだと唖然とする。

本書を読んでなるほどと思ったのは、そもそも56の「少数民族」というのは政府が恣意的に認定(識別)したものに過ぎないということだ。例えば、「回族」は民族と呼べるのかどうか。回族は、漢語を話し、他の民族集団に入れないイスラム教徒をまとめてそう呼んでいるだけなのである。独自の言語を持たず、独自の民族的出自もない。中国最大の「少数民族」とされるチワン族や、ヤオ族、イ族、ハニ族も、実際には数十のエスニック・グループの総称に過ぎない。1950年代には雲南省に260のエスニック・グループがあったというが、それが政府によって22に「少数民族」に「併合」されたのである。

確かに、回族、東郷(ドンシャン)族、保安(バオアン)族のように、歴史的に漢族と同じ地域で共存してきた人たちや、雲南の数十万規模の民族集団は、自ら中華文明を受け入れ、独立を志向したこともない。しかし、彼らと、かつて国家を持っていたが、大国の思惑によって国を奪われてしまったチベットや東トルキスタンを同列に論じることはできないだろう。本書には、中国政府がチベットやウイグルに対して行ってきた負の歴史については、一切触れられていない。(13/08/12読了 13/11/19更新)

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