読書日記 2016年

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世界はこのままイスラーム化するのか 島田裕巳・中田考 幻冬舎新書 ★★★☆☆

対談集なので体系的ではないが、イスラームについてある程度の予備知識があり、あれこれ考えてみたい人には良いかもしれない。ただ、タイトルはあまり内容を表しているとはいえない。

21世紀に入って、イスラームの存在感は増すばかりである。
現在、世界には16億人ものイスラム教徒がいる。やや意外なことに、ムスリム人口が最も多い国はインドネシアであり、次いでインドである。それにパキスタン、バングラデシュ、ナイジェリアと続く。つまり、イスラームと聞いて真っ先にイメージされるアラブ世界よりも、アジアやアフリカのほうがムスリム人口が多いのだ。
一方、日本のムスリム人口は(外国人を含めても)0.1%にすぎず、ベトナムなどと並んで世界で最もイスラム教徒がまれな国の一つである。

そのような多様性を内包したイスラーム世界であるから、「イスラームを理解する」などということは、所詮無理な相談なのだと思う。イスラム教徒といっても、アラブとトルコとイランとインドとインドネシアと中央アジアとアフリカとコーカサスとバルカンではまったく違う。

ハサン中田考氏は、自身が敬虔なムスリムであり、イスラーム世界にも貢献した博識なイスラーム学者でもある。そのような人物から日本語でイスラームについての解説が聞けるというのは、刺激的である。
けれども氏は筋金入りの原理主義者であるので、その考え方は大部分の「普通の」ムスリムには受け入れがたいものであるだろう。
そもそもハサン中田考氏の研究の原点は、イブン・タイミーヤ(1263~1368)なる人物にある。イブン・タイミーヤの思想は「革命のジハード論」を生み、アルカイダやイスラーム国など現代のイスラム武装勢力の源流となったものなのだ。

オスマン帝国の解体以降、イスラーム世界は西欧によって国境線を押しつけられ、蹂躙されてきた。その怨念がアルカイダやイスラーム国というモンスターを産み出したのだ、という話はよく分かる。
けれども、ハサン中田考氏の唱える「カリフ制再興」は、もっと過激なものだ。そもそもイスラームとは、唯一神アッラーだけに従う世界である。イスラームは人間が他者を支配することを認めていないのだから、国民国家という枠組みそのものを否定していることになる。
目指すところは「グローバルな平和的アナーキズム」・・・というが、そういう思想はどんな国家においても弾圧されるであろう。さすがにそれは理想主義的すぎるのではないだろうか?それに、その場合、非ムスリムの立場はどうなるのだろう?
現代社会における「カリフ制再興」の実現可能性について、島田裕巳氏にもっと突っ込んで欲しかったところだ。(16/03/13読了 16/04/11更新)

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