読書日記 2017年

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おどろきの心理学 妹尾武治 光文社新書 ★★★☆☆

「ホンマでっか!?TV」など、巷に溢れる「ワンフレーズ心理学」と同レベル。確かに読み易く、すぐに通読できるのだが、無駄に挿入された芸能ネタが週刊誌の記事のような安っぽさを与えている。
「赤い服を着るとモテる」(赤い枠で囲まれた女性の写真は魅力的に見える)という話を序章に持ってきたのは、つかみとしてはバッチリである。とりわけ、最初の口絵の写真が良い。

サブリミナル効果は捏造だった、という話は『オオカミ少女はいなかった』(鈴木光太郎)にも出てくるが、鈴木の本のほうが面白く、品がある。血液型診断や認知バイアスの話も、エセ科学を語る際の定番で、目新しさはない。
一方、最後の章で紹介されているサイエンス誌の論文は衝撃的だ。270名の心理学者のボランティアを募り、3種の心理学雑誌に掲載された100の心理学実験の再現を試みてもらったところ、わずか39%しか再現性がなかったというのだ!

「あとがき」 はいただけない。プロレスについて熱く語ったあとに、「心理学はプロレスのようなものだ」などと言われたところで、プロレスに1ミリの興味もない読者にとっては、まったく心理学を擁護したことになっていない。
こうして本書は、心理学に対してむしろネガティブな印象を植え付けて終わるという構造になっている。

さて、巻末に参考文献のリストが付されている点は評価できる。それで、上記の Science の原論文に当たってみた。
本書には、論文の著者ボノンハンが第三者の心理学者に追試を依頼したようなことが書かれている。しかし、それは正しくない。ボノンハンはサイエンス誌のライターに過ぎず、本書で引用されているのは、ボノンハンが論文の内容について紹介した記事である。
実際の論文(1)は、 Center for Open Science という組織が行った、大規模な国際プロジェクトなのだ。
著者は本書で、テレビで垂れ流されているウサン臭い心理学が原論文の主張から歪められてしまっていることを嘆くが、著者自身が原論文を読んでいないのだろうか・・・?
それに、なぜか本書では指摘されていないが、再現性の低さの主要な要因は、publication bias(統計的有意性が得られたものだけが論文になる)だろう。
さらにまた、(1)の統計的解釈に反論し、実際にはそれほど再現性が低くないことを指摘する論文(2)も出版されており(さらにその再反論もある)、事態は錯綜しているようだ。

文献
1. Open Science Collaboration. (2015) Estimating the reproducibility of psychological science. Science 349: aac4716.
2. Gilbert DT, et al. (2016) Comment on "Estimating the reproducibility of psychological science". Science 351: 1037.

(17/05/09読了 17/05/11更新)

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