読書日記 2018年

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旅をする木 星野道夫 文春文庫 ★★★★★

言うまでもなく、星野さんは写真家である。アラスカに暮らし、人の住まない原野に分け入って、動物や風景のいい写真をたくさん撮った。
この本には、一枚の写真も出てこない。
でも、文章もとてもいい。
ただ、ポジティブなことだけが、なんの衒いもなく綴られている。読んでいて、涙が溢れてくる。

タイトルにもあるように、この本の主題は<旅>だろう。
これらの文章が書かれたのは1990年代だから、そんなに大昔というわけではない。
それなのに、ここに書かれていることは、なにか遠い昔のお伽噺のように感じる。

何が良かったかって?それはね、私が東京であわただしく働いている時、その同じ瞬間、もしかするとアラスカの海でクジラが飛び上がっているかもしれない、それを知ったこと・・・

インターネットとSNSの出現は、世界を圧倒的に身近なものにした。
でも、本来の旅の姿は、もう永遠に失われてしまったのかもしれない。

星野さんは1996年に、ヒグマに襲われて亡くなった。
星野さんが、インターネットに支配された地球の姿を見ることなく旅立ったのは、なにか象徴的な気がする。(18/10/10読了 21/07/11更新)

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