1999年 55冊

(★〜★★★はお薦め度

「ビリー・ミリガンと23の棺(上)(下)」 Daniel Keyes 堀内静子 訳 早川書房 ★★
     結局、彼は自由を勝ち取るまでに14年もかかった。何という人生だろう!それにしても、ブラック・マンデーその日にライマが閉鎖され、<死のセラピー>が彼を一つにしただなんて、「事実は小説よりも奇なり」とはいえうまくできすぎているんじゃないの?('99.12.4)
「24人のビリー・ミリガン(上)(下)」 Daniel Keyes 堀内静子 訳 早川書房 ★★★☆
     アーサー、レイゲン、アレン、クリスティーン、・・・。超個性的な24の人格たちが繰り広げる多重人格の驚異の物語。まるで映画を観ているような、こんなことが現実にあり得るのだろうか?人格同士でチェスの試合をしたりするのは、ちょっと信じがたい気がするが・・・。('99.11.24)
「星の王子さま」 Antoine de Saint-Exupery 内藤濯 訳 岩波書店 ★☆
     箱根にある「星の王子さまミュージアム」で買った。この本がこんなにも人気があるところが、いかにも日本的ですな。('99.11.3)
「アルジャーノンに花束を」 Daniel Keyes 小尾芙佐 訳 早川書房 ★★☆
     こうして私は三島にやって来た。三島新生活の中で最初に読んだ本がこれ。泣ける。('99.10.17)
「われらいのちの旅人たり」 灰谷健次郎 角川文庫 ★★
     執着を捨てよ。この達観に到達するまでに、人は一体どれだけの苦しみを乗り越えなければならないのだろうかと思う。
     思えば、名古屋時代の最大の収穫は、常に本を読むようになったことだった。だが、所詮読書は他人の追体験に過ぎぬ。これからすべきことは、だから、行動することなのだ。('99.9.19)
「わたしの出会った子どもたち」 灰谷健次郎 角川文庫 ★★★
     そして、次に読んだこの本は、かなりの衝撃を私に与えたのだった。灰谷健次郎がこんなにも凄まじい半生を送ってきていたとは。「地獄に堕ちよ。もっと苦しめ。もっと苦しめ」。この苦しみをくぐらなければ、「兎の眼」も「太陽の子」も書けなかったのだ。「えぇ話やけど、現実はこんなモンじゃないよ、きっと」と、どこか醒めた目で灰谷作品を見てはいなかったか。何たる傲慢さよ!彼の、そしてオキナワの背負ってきた苦悩を思え。全ては本当に取るに足らぬことではないか!('99.9.19)
「少女の器」 灰谷健次郎 角川文庫 ★☆
     「長い人生のうち、はじめからしまいまで思うままに生きられたという人がいたら、その人は多分不幸な人だろうね」。登場人物のちょっとした台詞の中に、深く印象に残ることばがある。なんて、ナメたことを考えていたのだったが・・・。('99.9.19)
「はじめての構造主義」 橋爪大三郎 講談社現代新書 ★☆
     10年近くも前にこの本を読んだとき、神話学のウサン臭さはさておき、親族構造と群論との対応がどうしても納得できなくて、「なんじゃコリャ!?」と思ったものだった(今読んでもやっぱり納得できない)。でも、構造主義はもうかれこれ半世紀近くも前に登場したものであって、当時の私にはその<時代の流れ>というものが全く理解できていなかった。<思想>なんてものが如何に普遍的でないか(つまり、歴史的であるか)がよく分かる。今は皆エコロジーなんて言っているけど、10年も経てばすぐに古くなってしまうのだろう。('99.9.6)
「羊をめぐる冒険(上)(下)」 村上春樹 講談社文庫 ★☆
     今、一つの時代が終わろうとしている。暮れなずむ20代への挽歌。切ないなぁ。村上春樹の青春3部作、これにて完結。('99.9.5)
「滅びゆくことばを追って」 青木晴夫 岩波書店 ★★☆
     北アメリカの先住民Nez Perce(ネズパース)族の言語を調査したフィールドワークの貴重な記録。読み物として面白いし、北米インディアンの言語のもつ抱合語的な性格(例えば蛾はti'p'ut?inahwa・laqca:肝臓を火の中に飛びながら運び入れる)も興味深い。しかし、話者は現在100人程度ということであり、北米やオーストラリアの先住民の言語はいずれもそうだが、絶滅は時間の問題である。数千年かかって築き上げられた文化を地球上から永久に消滅させるのに、人の一生と同じ時間しかかからない。まことに悲しいことだ。('99.8.26)
「20世紀言語学入門」 加賀野井秀一 講談社現代新書
     この本は、人名とカギ括弧に括られた衒学的なキィ・ワードが羅列してあるばかりで、例えば構造主義の一体どこが「世界を震撼させる知の起爆剤」なのかちっとも伝わってこない。著者の哲学に裏打ちされていない本は退屈でつまらないのであって、この機に内容の類似している「言語学とは何か」(田中克彦、岩波新書)を読み返してみたが、こちらの方がずっと読む価値がある。ところで、言語学をつくった人々は印欧語を母語としている人に著しく偏っているのに、それは果たして普遍的であり得るのだろうか?('99.8.15)
「ニューギニア高地人」 本多勝一 朝日文庫 ★★★
     現在のイリアン=ジャヤ、標高2000mほどの高地のジャングルに、地球最後の石器時代を生きる人々がいる。彼らが"発見"されたのは何と1936年であり、この本が書かれてから既に35年も経ってしまったことを考えると、誇り高き彼らの現在が大いに気になる。('99.8.14)
「点と線」 松本清張 新潮文庫 ★☆
     昭和32年当時の交通事情が分かって興味深い。<解説>にもある通り、ラストまで一気に読み終えてみても全ての疑問が氷解する訳ではないところに少々不満が残る。('99.8.8)
「父と母の昔話〜96年版ベスト・エッセイ集〜」 日本エッセイスト・クラブ編 文春文庫 ★☆
     書かれたのが1995年ということで、震災モノと戦争モノが多い。以前に読んだ2冊に比べなぜか印象が薄かった。('99.8.3)
「カナダ=エスキモー」 本多勝一 朝日文庫 ★★☆
     少数民族への単なる憧憬を超えた多面的な分析と、それを可能にする著者の博識には舌を巻く。しかし、この本よりもやっぱりウエムラの本の方が面白いし、希望を与えてくれるのは、ジャーナリズム(や分化人類学のフィールドワーク)というものが所詮は外部からの観察者に過ぎないからであろうか。('99.7.26)
「極北に駆ける」 植村直己 文春文庫 ★★☆
     読んでいるこちらまで、グリーンランド・エスキモーと友達になったみたいで非常に楽しい。それにしても、モンゴロイドがこれだけ広く地球上に分布しているということは全く驚きである。('99.7.21)
「水辺のゆりかご」 柳美里 角川文庫 ★★
     28歳の若さにして、その数奇な半生を振り返って綴った自伝的小説。忘れかけていた心の襞をえぐられるような、強烈な存在感がある。('99.7.14)
「北極圏一万二千キロ」 植村直己 文春文庫 ★★
     植村直己の偉大さは、その愛すべき人間性にあるのだろう。非常に周到に準備をしているようでいて、すぐに落ち込んだり意外にも単純なミスを犯したりする。彼は決して天才ではなかったから、我々を勇気づけてくれるのだ。('99.7.13)
「ヒマラヤ登攀史」 深田久弥 岩波新書 ★★
     世界に全部で14座ある8000m峰は、政治的な、という不純な理由によって登られなかった1座を除き、1950年から僅か10年の間にすべて初登頂されてしまう。「機が熟する」とはこういうことなのかと、人類の歴史を興味深く思う。ただ、国威発揚的な側面が強すぎて、あまり冒険という感じはしない。('99.7.10)
「天の瞳 -幼年篇 I,II-」 灰谷健次郎 角川文庫 ★★★
     それこそ子供にも分かるような平易な言葉で書かれているが、だからこそ内容そのものがストレートに心に伝わる。俺もこんなに優しい、そして哲学をもった人間になりたい。すぐに読めてきっと読んで良かったと思える、世の中のすべての忙しい大人たちに是非読んでもらいたい名作。('99.7.3)
「錦繍」 宮本輝 新潮文庫 ★☆
     離婚した二人の過去が、往復書簡によって少しづつ埋められていく。不幸な過去を乗り越え、未来が見えてきたところで終結する、古風で美しい物語。('99.6.27)
「若きサムライのために」 三島由起夫 文春文庫
     少しは現代にも通用することが書かれているかと思ったけど、実に下らん。本多勝一が三島由起夫(や石原慎太郎)の行動を「ニセモノの冒険」とコキ下ろしていたが、なるほどそうだ。(でも、だからといってこの本が読む価値がない訳ではない。)('99.6.26)
「先住民族アイヌの現在」 本多勝一 朝日文庫 ★★☆
     自分達の一番近くにある自分と異なる言語と文化が地球上から消え去ろうとしているのに、それを守るどころか意味不明なダムを造ってその聖地を水没させ、最後の一撃を加えたこの日本という国家は、何と悲しく下らない国なのだろう。90年代も後半に入って流れは明らかに変わってきたように感じるが、アイヌをとりまく現状はこの当時(93年)からどう変化しただろうか。アイヌの方、アイヌその他の少数民族の言語・文化に興味のある方、またそれらを守るために行動している方、是非メールを下さい。('99.6.21)
「沈黙」 遠藤周作 新潮文庫 ★★☆
     一神教のもつ構造的な矛盾が見事に描き出されている。もし、キリスト教が禁止されないまま鎖国を迎えたとしたらどうなっていただろう?今ごろ、キリストも八百万の神の一人として神社にでも祀られていただろうか?('99.6.12)
「ASIAN JAPANESE」 小林紀晴 情報センター出版局 ★★★
     ノン・フィクションとしてのこの本の面白さは、旅先で出会ったアジアン・ジャパニーズたちのその後を追跡しているところにある。日本が一番クレイジーだったときに青春時代を過ごしてしまった我々ウツ病世代には、妙にこういうヤツが多い。('99.6.6)
「螢川・泥の河」 宮本輝 新潮文庫 ★★
     ひと仕事終わってフト寂しくなると、小説が読みたくなる。哀しいけれど美しい、こういうのがいい。('99.6.5)
「街道を行く7 甲賀と伊賀のみち、砂鉄のみちほか」 司馬遼太郎 朝日文庫 ★★☆
     「砂鉄のみち」は白眉である。日本の湿潤な気候が豊富な鉄器の生産を可能にし、ために日本のみは「アジア的停滞」から免れることができたという、著者独特の歴史観が展開される。要するに、砂鉄が日本の歴史をつくったのだ。('99.6.1)
「日本語の起源」 大野晋 岩波新書 ★★
     日本語とタミル語との間の500語程度の対応語の存在は、恐らく両者の間に接触があったことを示しているし、稲作・金属器・機織が南インドから伝わったということも或いは事実かも知れない。だから、日本語は土着の原始日本語の上にタミル語が被さってできたキメラかも知れないが、これだけでは両者は「同系」とは言えないのではないか(文法構造が日本語と同じ言語はいくらでも存在する)。('99.5.23)
「日本語練習帳」 大野晋 岩波新書 ★☆
     良い日本語を書くための教育というのは、今まで殆んど受けてこなかった。主人公の気持を推量することなんかよりよっぽど大切なのに。
     「思う」と「考える」の違いはちょっと「考え」させられた(「この道を行こうと思う」「どの道を行こうかと考える」)。それにしても、何故今この本が売れるのだろう?('99.5.17)
「日本アルプスの登山と探検」 W. Weston 岩波文庫 ★★☆
     「日本アルプスの父」といわれる英国人宣教師ウェストンによって、ちょうど100年前に書かれた、不思議の国・ニッポンの愉快な紀行文。この本の面白さは、当時の人々の習俗が描かれているところにある(尤も、これでも非常にマシな方なのだろうが、帝国主義的な傲慢さが全篇に漂っていることは否めない)。この100年間に、我々は何と多くのものを失ってしまったことだろうか。('99.5.16)
「冒険と日本人」 本多勝一 朝日文庫 ★☆
     論旨は明確で一貫しているけど、無意味に他人を中傷している部分もあると思った。評論家というのも因果な商売だな。植村直己との対談を読むと、植村の方が一枚上手だと思ってしまう。('99.4.29)
「続・山で死なないために」 武田文男 朝日文庫 ★☆
     こちらは比較的最近の本なので、登山界の現状を知るには良い。それにしても、どうして今の山は中高年ばかりなのだろう?新聞調の文章が、まとめて読ませられると少々鼻につく。('99.4.29)
「山で死なないために」 武田文男 朝日文庫
     前半は内容的に本多勝一の本と類似しているが、本多の方がより分析が鋭く主張も明確である。後半は山における環境破壊について述べている(といっても昭和の話)。「山が死なないために」、私も何か行動を起こさなければならないな。('99.4.19)
「リーダーは何をしていたか」 本多勝一 朝日文庫 ★★
     知識も経験もないリーダーによって起こるべくして引き起こされた、4件の遭難事件を斬る。安易に冬山に挑むことがいかに危険であるか。「遺族たちの言葉」は極めて説得力がある。また、ジャーナリストでありながら自ら法廷に立って証言する筆者の行動力に感服する。('99.4.7)
「山を考える」 本多勝一 朝日文庫 ★★
     24歳から58歳まで、筆者の山に対する接し方が次第に変化していくのが興味深い。パイオニア=ワークの対象としての山は、今からもう半世紀近くも前、DNAの二重らせんが発見されたその年に、科学と共に死んだのだ!思えば何とつまらぬ時代に生まれてきたことか。('99.4.5)
「孤高の人(上)(下)」 新田次郎 新潮文庫 ★★☆
     ストーリーは至極単純なのに、新田次郎の小説はいつも最後まで一気に読まされてしまう。"単独行の加藤文太郎"が見出した幸福とは、家庭を持つことだった。このことは、「なぜ山に登るのか」という問いに対するヒントではないか?('99.4.1)
「アポロ13号 奇跡の生還」 Henry S.F. Cooper, Jr. 新潮文庫 ★☆
     この煩わしいカタカナ語は何とかならないものか。立花隆の翻訳にしては、やけに分かりにくい日本語だった。('99.3.19)
「手を洗うのが止められない」 Judith L. Rapoport 晶文社 ★★
     程度の差こそあれ、誰にでも強迫的な(脅迫的じゃないよ)行動はあるだろうけど、「死」という言葉を埋め合わせるために「生」を探さなければならなかったり、家の門をくぐるのに2時間もかかったりするこの強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder)は全くもって奇妙な病気だ。('99.3.10)
「妻を帽子とまちがえた男」 Oliver Sacks 晶文社 ★★★☆
     自分の足を靴と間違え、妻の顔を帽子だと思ってかぶろうとする失認症の男。記憶が25年前のまま止まってしまい、今起こったことは1分と覚えられないコルサコフ症候群の男。全身の固有感覚が失われて、自分の身体を感じることができなくなった女性。IQが60しかないにもかかわらず、111本のマッチ棒の数が瞬時に「見え」、20桁(!)の素数を言い合って遊ぶ、自閉症の双子の兄弟。脳神経に器質的な障害のある、こんな不思議な24人の患者たちが登場する。非常に興味深い。('99.3.5)
「五体不満足」 乙武匡洋 講談社 ★★☆
     「どうせ」というのは、自ら人生をつまらなくする言葉。こんなに徹底的に前向きなヤツと同じ高校出身だなんて、光栄なのと同時に自分が恥ずかしくなる。('99.3.3)
「サイエンス・ナウ」 立花隆 朝日文庫 ★★
     自分の専門に近い分野は妙に細かいところが気になってしまうが、専門から離れた話題については実に興味深く読めた。これだけ分かり易く書けるのは、筆者がいかなる専門家でもないからだろう。「ナウ」といってもこの本の内容はもう10年も昔のもので、殊に物理学に関しては80年代サイエンスの郷愁を感じてしまう。('99.3.2)
「軽症うつ病」 笠原嘉 講談社現代新書
     これから暫く、精神医学の世界を旅してみるつもりだ。('99.2.26)
「異人たちとの夏」 山田太一 新潮文庫
     読み始めるとすぐに引き込まれるが、終盤でやや興醒めする。田辺聖子の解説(感想?)も納得できない。しかし、河合隼雄の「こころの声を聴く」を読み返してみると、なるほどと思う。('99.2.21)
「ぼくはこんな本を読んできた」 立花隆 文藝春秋 ★☆
     無事に博士号もGET(予定)できたことだし、ここらで初心に帰ってみようと思った。「僕の読書を顧みる」は圧巻だし、「退社の弁」「ぼくの秘書公募、500人顛末記」あたりは面白い。しかしこの本は、彼の他の著作に比べて作りが安易で、読みでがない。全体の半分近くを占める「僕の読書日記」はあまり面白くないが、彼の言う「<人類の知の総体>への挑戦」とはこういうことなのか、と思う。('99.2.19)
「あすなろ物語」 井上靖 新潮文庫 ★☆
     高校の時の夏休みの課題図書の一つだったけど、当時はこういう前向きな本には決して手を出そうとは思わなかった。今読んでも、もう評論めいた読み方しかできない。('99.2.14)
「黒い雨」 井伏鱒二 新潮文庫 ★★
     鰻の子が遡上してくるラストの印象的なシーンは、昔どこかで読んだことがあるような気がする・・・。('99.2.11)
「坊ちゃん」 夏目漱石 新潮文庫 ★☆
     実に分かり易い痛快な物語。93年の歳月を経て、今読んでも全く違和感がないところがソーセキ・ナツメの偉大さか。('99.1.20)
「太陽の子」 灰谷健次郎 角川文庫 ★★☆
     子供の頃にこの小説を読んでいたらどう感じただろう?私は決してこんなに素直ではなかった。('99.1.18)
「アメリカひじき・火垂るの墓」 野坂昭如 新潮文庫 ★★
     極めてアクの強い文体だが、読んでいるうちにこの独特のリズムが心地良くなってくる。
     我々は、戦争という特異な体験を、書物を通じて間接的にしか知ることができない。でもさ、現実世界において、涙を流すほど感動したり、心の底から悲しんだりした体験がどれだけあるだろうか?他人を追体験することによってしか<感じる>ことができないくらいにこの世界はバーチャルなのか?('99.1.18)
「敦煌」 井上靖 新潮文庫 ★☆
     中央アジアの歴史は実に壮大だ!('99.1.2)


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