読書日記 2010年

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色彩心理学入門 大山正 中公新書 ★★★★☆

色彩研究は、物理学、生理学、心理学から芸術までを含む学際的な領域である。本書は、ニュートンの『光学』、ゲーテの『色彩論』から始まる色彩研究の流れを歴史を追って解説したもので、様々なトピックがバランスよくコンパクトに纏まっている。非常に勉強になった。

本書の中で最も興味深いのは、色盲の人(敢えて「色覚異常者」とは呼ばない)の色覚体験についてである。色盲(二色型色覚)の人は、スペクトル中に白色が見える。その位置は第一、第二、第三色盲で異なる。第一、第二色盲の人は、青緑付近のわずかに異なる位置が白色に見え、第三色盲の場合は、白色点は黄色と菫色の二ヶ所にある。

第一、第二色盲の人は、赤と緑が識別できないという。では、彼らにとってのそれは、三色型色覚の人が見る赤なのだろうか、それとも緑なのだろうか?

ある色名(例えば「あか」)が指す主観的体験の内容が、他人と共通しているかどうかを確かめるすべはない。従って、三色型色覚者にとっては、二色型色覚者の色覚体験を伺い知ることは非常に困難である。しかしそれは、不可能ではない。実は、片目が三色型、片目が二色型という、三色型と二色型の通訳のような女性がごくまれに存在するのである。そういう人たちの報告によれば、赤緑色盲の人が見る赤〜緑は、三色型色覚者の見る黄色である。ちなみに、そのようなことがなぜ起こりうるかといえば、女性の身体はX染色体の不活性化がランダムに起こってできたモザイクだからである。

三色型色覚者にとっては、赤と緑の混色によって作り出された黄と、単色光の黄とを区別することはできない。これは、「混色」と呼ばれる現象である。もし、四色型色覚者がいれば(実際いるらしい)、両者は違った色として知覚されるはずである。混色という現象は、人間以外の動物にも見られる。例えばミツバチは、ミツバチにとってのスペクトルの末端にある黄と紫外を混合すると、そのどちらとも異なった色として知覚するという。

赤、緑、青が光の三原色であることはよく知られている。ところが実際には、赤、緑、青の混色では作りえない色が少しだけ存在する。スペクトルの光は最も鮮やかな色を示すので、その中から赤、緑、青の光を選ぶ。それらを混合しても、スペクトル中に見出されるような非常に鮮やかな黄と青緑は作ることができない。例えば、スペクトル中の緑と青の混色によってできた青緑は、スペクトル中の青緑よりもかなり鮮やかさが劣る。そのため、三原色で全ての色を作り出すためには、「負の混合」という数学的な操作が必要になってくる。(10/02/17読了)

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