読書日記 2010年

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匂いの人類学 鼻は知っている エイヴリー・ギルバート ランダムハウス講談社 ★★★☆☆

原題は"What the nose knows"だが、こういう洒落たタイトルが日本語訳では消えてしまうのが残念である。著書は嗅覚心理学者であり、同じ業界のRachel Herzによる『あなたはなぜあの人の「におい」に魅かれるのか』に比べると、本書の方が学術的にしっかりしているという印象を受ける(翻訳のせいかもしれないが)。参考資料も詳しく、執筆に際してかなりの数の文献を読み込んだことが分かる。

ちなみに私は、著者のAvery Gilbertから質問を受けたのだが、私の名前が謝辞にきちんと載っているのは著者の誠実さを感じた。また、著者は嗅覚に関するブログも書いていて、その中で私の最近の論文について解説しているのは嬉しいことである("First Nerve")。

「ヒトは1万種の匂いを嗅ぎ分けられる」とよく言われるが、この数値には根拠はなく、実際には誰も数えた人はいない。また、嗅覚には記憶を呼び覚ます特殊な力があると信じられている(「プルースト効果」というたいそうな名前が付けられている)が、そのことを示す明確な科学的根拠なはい、などの話題は説得力がある。

本書は、前半は科学的で面白いのだが、後半は退屈である。文学の中の匂い、匂いつき映画、匂いを利用した広告、古き良きアメリカの匂い。こういった話題は、著者が(アメリカの)一般的な読者に興味をもってもらえるように選んだのだろうが、日本人にはほとんどイメージが湧かない。嗅覚体験は強く文化に依存していて、普遍性がないのである。(10/08/09読了)

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