読書日記 2010年

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走る意味─命を救うランニング 金哲彦 講談社現代新書 ★★★★☆

カリスマコーチと呼ばれ、ランニングのハウツー本を多数出版しているいる著者であるが、こんなにも波乱に富んだ人生を送ってきたとは知らなかった。

箱根駅伝では「山登りの木下」の異名をとり、早稲田大学を2度の優勝に導く。在日で朝鮮籍だった筆者は、国籍を韓国に変えて、韓国代表としてロス五輪に出場することを監督から勧められるが、その勧めを蹴る。卒業後リクルート社に入社、たった一人で陸上部を立ち上げる。1987年の別大マラソンで3位入賞、その記録は当時の韓国記録を上回っていた。国籍を変えてバルセロナ五輪を目指すが、2時間11分の自己ベストを出すも、すでに韓国のレベルが上がっていて五輪出場の夢は敗れる。その後、有森裕子や高橋尚子を輩出し、日本一強くなったリクルート社の女子チームの監督に就任。陸上部の休部に伴い、新たに市民ランナーのためのクラブチームを立ち上げる。そんな折、40歳前半の若さにして、かなり進行したガンが見つかった。退院後に走ったゴールドコーストマラソンは、5時間42分だった──。

トップアスリートの世界も興味深いが、本書で一番印象的なのは、最終章だ。スタートラインに立ったときの緊張感、走り終わったときの安堵感と悔しさがないまぜになった感じ。そして、その後で飲むビールの旨さ・・・。それは、私のような故障だらけのヘボランナーでも、サブスリーのエリートランナーでも、壮絶な体験をしたトップアスリートでも、きっと同じなのだろう。

走るときに大事なことは、自分の身体の内面の声に、静かに耳を傾けること。レースのタイムは、追いかけるものではなく、後からついてくるものだ。この言葉を心に留めて、これからも細々と走っていこうと思う。(10/12/03読了)

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