読書日記 2011年

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人物で語る化学入門 竹内敬人 岩波新書 ★★★★☆

化学という広大な世界のすべてについて、その発見者にスポットライトを当てながら解説した本。非常に内容が濃いが、体系的にコンパクトにまとまっているので、通読した後も、必要に応じてハンドブック的に使える。高校の時に勉強した、懐かしい化学用語がワンサカ出てくる。

化学の通史としては、なんといってもアイザック・アシモフの『化学の歴史』がイチオシである。本書の著者自身が、アシモフの『化学の歴史』の訳者でもある。アシモフの本は半世紀近くも前に書かれたので、人類の火の利用から始まって、原爆が炸裂するところで終わっている。それに対し本書は、もっと新しい様々な話題が盛り込まれている。フラーレン、カーボンナノチューブ、電導性高分子、クラウンエーテルなどの新規化合物が合成されたが、それぞれで1冊の本が書けるほどの深遠さがある。また、これは類書も多いが、ノーベル賞を受賞した日本人の業績についても詳しく説明されている。

アシモフの本は時系列に沿って書かれていて、全体として一つの物語をなしている。こちらはやや雑然とした印象を与えるのだが、それは、20世紀後半から21世紀にかけての、化学という学問の姿そのものなのかもしれない。また、著者が「あとがき」で述べているように、化学は物理学と違って、アインシュタインやニュートンなどのスーパースターがいない。そのため、化学史は物理学史に比べると地味である。

一方、化学は物理学とは違って、高校レベルの知識でもかなりのことが理解できる。本書を読めば、化学という学問体系の中での、高校化学の位置づけと、その限界が分かる。だから、本書は受験を控えた高校生にもお薦めである。

このような問題に答えるためには、それぞれ量子力学(ハイトラー=ロンドン理論)、福井謙一によるフロンティア軌道理論、エンタルピーといった道具が必要になってくる。

など、地味なトリビアも満載。(11/03/02読了)

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