読書日記 2012年

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ロシア語のしくみ 黒田龍之助 白水社 ★★★★☆

ロシア語は難しい言語だと言われる。実際、非常に難しい。

まず文字が違う。色んな言語を囓ってみて思うのだが、大人になってから文字体系の違う言語を学ぶのは、極めてハードルが高い。だから、日本語に挑もうとする外国人には本当に頭が下がる。

ロシア語を全く知らない人が本書を手に取ったとしても、きっとキリル文字の読み方を覚えられずに、すぐに投げ出してしまうに違いない。もっとも、表記と発音はよく対応しているので、慣れてしまえば何ということはない。私は大学のときに(もう20年も前の話だが)2年間みっちりロシア語を勉強したので、その点では非常に有利である。本書は、かつて勉強したことを思い出すためには有用だった。

ロシア語の単語は、華麗な変化を遂げる。名詞には男性・女性・中性がある。名詞の性は基本的には語尾で区別できるが、実際に男女の区別があるものに対しては、そちらが優先される。名詞には複数形もあって、性によって複数形の作り方が違う。そして、恐ろしいことに格が6つ(主格・生格・与格・対格・造格・前置格)もあり、格変化の仕方も名詞の性数(単数男性・女性・中性・複数の4通り)によって異なっている。

形容詞は、輪をかけてややこしい。まず、名詞の性数に応じて語尾を変化させる必要がある。それだけでなく、名詞が格変化するときには、形容詞も一緒に格変化させなければならないのだ。ロシア語は形容詞と名詞の結びつきが強く、さながら韻を踏んでいるかのように連れだって変化するのである。

たとえば、「赤い花」красный цветок という場合、後ろに来る名詞によって「赤い」の語尾が変わるだけでなく、「赤い花は」「赤い花に」「赤い花を」「赤い花と」などによって「赤い」と「花」の両方の形が変化していくのである。

このような変化は、「私」я「あなた」ты「彼」он などの人称代名詞、「何」что「誰」кто などの疑問代名詞、「私の」мой「この」этот などの所有代名詞や指示代名詞に対しても起こり、それぞれ変化の仕方が規則的でないため、一つ一つ覚えていかなければならない。やがて、数詞までもが変化し始める。「2012年は」「2012年に」「2012年と」の2000、10、2、年がすべてばらばらに変化するのだ。

動詞も奇妙な仕方で変化する。現在形は、フランス語・スペイン語などと同様に、1・2・3人称の単数・複数に応じて6通りに語尾変化する。(たとえば第一正則変化は、-ю/-ешь/-ет/-ем/-ете/-ют。例外多数。)ところが、過去形になると、(動詞の語幹は同じであるにもかかわらず)形容詞のように、単数男性・女性・中性・複数という4通りの変化(-л/-ла/-ло/-ли)に変わるのだ。

さらに、英語の完了形に相当する完了体というのがあり、これがまたすこぶる厄介である。ロシア語の完了体は、基本形である不完了体に接頭辞や接尾辞を組み合わせて作らなければならないのだが、その作り方はバラエティーに富んでいる。従って、それぞれの動詞について、不完了体ー完了体のペアを一つ一つ覚えていくしかない。

ロシア語文法の中でも最も不可解なのは、数詞と組み合わさったときの名詞の形態であろう。数詞が1であれば、名詞はもちろん単数形を使う。(ただし、1は名詞の性数に応じて変化する。「1」なのに複数形もある。)ところが、数詞が2、3、4の場合は、なんと(主格なのに)単数生格を使うのだ。そして、5以上になると、今度は複数生格を使う。10以上については、一の位の数によって名詞の形態が決まり、11は単数、12〜14は単数生格、15〜20は複数生格という具合にめまぐるしく変化していくのである。(12/08/09読了 13/02/10更新)

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