読書日記 2012年

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天才の脳科学―創造性はいかに創られるか ナンシー・C. アンドリアセン 青土社 ★★★☆☆

本書では、「天才=並外れた創造性」と定義している。こう定義してよいかどうかは議論の余地があるところだが、ともかくこの本は、得体の知れない「創造性」というものを、なんとか科学の俎上に載せようと頑張ってみたものである。しかし結局のところ、その実体は、科学的にはなにも分かっていないに等しい。

知能を測定するためにIQテストを行うように、創造性を測定する検査法を開発しようという試みはいくつかあった。それは、「発散的思考」(与えられた問いに対し、可能な答えをできるだけ多く見つけ出すこと)の程度を測定しようとするものだ。しかし、この創造性検査を受けた子供たちを追跡調査してみると、スコアの高かった子供が将来的に成功するということはなかった。つまり現状では、創造性検査には「予言的妥当性」がないのだ。

著者は、脳科学者かつ精神科医であり、しかもルネサンス期の英文学で博士号を取得しているという、異色の経歴をもつ研究者である。したがって、芸術にも造詣が深く、創造性の研究を行うには適している。ただ、著者の行った「アイオワ大学作家ワークショップ研究」(創造性の高い作家は精神病に罹りやすいか?)は、あまり興味深いものではない。

創造の瞬間には、脳の中で何が起きているのだろうか?何人かの「天才」たちが共通して証言していることは、まさにその瞬間に「創造の神」が降りてきて、一種のトランス状態に入り込むというものである。本書の中で一番興味深いのは、科学とは呼べないそういう事例的研究(天才たちのエピソード)の部分である。

最終章の「脳トレ」的な話は蛇足であろう。この著者は、頭は切れるのだろうが、視野が狭い。本書は、アメリカ中心の世界観によって貫かれている。日本が登場するのは一箇所だけだ──「原爆を作ったことで日本を降伏させ、その結果多くの人生を救った」(P. 51)。著者は、マンハッタン計画を、人類の創造性の最も大きな成功例の一つと認識しているようだ。この人の創造性が高いのかどうかは分からないが、想像力はあまりないらしい。(12/12/15読了 13/02/10更新)

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