読書日記 2017年

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バルカンの花、コーカサスの虹 蔵前仁一 旅行人 ★★★☆☆

コーカサスの国々について、日本語で書かれた書物はほとんど存在しない。
地球の歩き方』においても、ロシア編の最後に、申し訳程度に数ページ掲載されているに過ぎない。(でも、Lonely Planet "Georgia, Armenia & Azerbaijan"が非常に充実していることからわかるように、欧米にとっては比較的メジャーな観光地である。)

本書は、そのコーカサスについて知ることができる、数少ない本の一つである。
写真がとても綺麗で、見ているだけで楽しい。アルバニアや旧ユーゴなどのバルカンの国々も、本書を読むまでは具体的なイメージがまったく湧かなかったが、小さな国がひしめいていて、旅先のターゲットとしてとても面白そうだ。

でもこの本は、紀行文としては駄作だろう。構成に何の工夫もなく、出来事を時系列に沿って並べただけ。文章も、中学生の作文みたいで素人っぽい。
内容は、タクシーをチャーターして観光地をくまなく回るという金持ち旅行。こんなことを1ヶ月も続けるためには相当な資金が必要だろう。
まぁ、これを参考にして、自分の行きたいところを見つければいいのだろうけど。

ところで、本書に出てくるアゼルバイジャンの「フナルッグ村」というのは、ヒナルク(Khinalug, アゼルバイジャン語で Xınalıq)のことであろう。 この村では、ヒナルク語という北東コーカサス語族(ナフ・ダゲスタン語族)に属する言語が話されている。この言語はこの村でしか話されておらず、話者数は1000人程度。重大な危険(Severely Endangered)に晒されている消滅危機言語である。
この言語については、絶版になってしまった『世界のことば小事典』に解説がある。
コーカサスは、言語の山である。思えば、私が最初にコーカサスという地域に興味を持ったのは、ヒナルク語について読んだときだった。
ただしこの村は、Lonely Planet "Georgia, Armenia & Azerbaijan"の「コーカサスで訪れるべきTop 9」に登場するくらいだから、もはや、それほどの秘境というわけでもないようだ。(17/06/30読了 17/12/19更新)

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