読書日記 2011年

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ダーウィン入門 斉藤成也 ちくま新書 ★★★☆☆

科学史上の偉大な発見というものは、それが新たな学問分野を生み出すことによって、常に乗り越えてられていく宿命にある。我々は、その発見を前提として議論を進めることに慣れているから、現在の知識をもってその問題点を指摘することは容易である。それに対して、その発見がなぜかくも偉大であったのかを理解することは、難しい。当時の時代背景を理解することが必須だからだ。

したがって、本書は『ダーウィン入門』と銘打ってはいるものの、およそ普通の意味でのダーウィン「入門」ではない。筆者はそのことを自覚しているし、それこそが中立論者としての筆者の狙いなのであろう。けれども、この本を読んでも、ダーウィンを理解したことにはならないのではないか。もちろん、世の中にダーウィン本はゴマンとあるから、中にはこういう本があってもいいとは思う。また、筆者は科学史家ではないがゆえに、逆に記述が分かりやすいという側面もある。

私は、ダーウィンの偉大さは、「ランダムな変異と自然選択という2段階のプロセスから、論理的な帰結として必然的に適応的進化が導かれる」ことを示したことだと思っている。私の解釈では、中立論はダーウィンを否定したのではなく、それを発展させたに過ぎない。否定されたのはダーウィンではなく、ネオ・ダーウィニズムなのだ。

なお、199頁に「分子時計と化石の年代推定法は同一原理に基づく」という趣旨の記述があるが、これは明らかに間違っている。(11/09/20読了)

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