旅のつばくろ ★★★☆☆ 沢木耕太郎 新潮文庫
これぞ旅で読むべき本⋯と思って、カザフスタンとアゼルバイジャンの長旅に携えて行った。
でもこの本は、日本の旅にこそふさわしかったのかもしれない。話題は、東北や長野といった国内の「小さな旅」だったから。
それはそうだろう、『深夜特急』では20代の若者だった著者も、もう80近いのだ。
著者はかつて、井上靖のシルクロードへの旅を、お年寄りの「大名旅行」と揶揄した。そんな筆者自身の旅は、今や枯淡な味わい深いものになっている。
旅人はいつでもこう思う。
自分はこの地に来るのが遅すぎたのではないか。
というフレーズが印象的。こういうのは、実際に長く旅を続けてきた人にしか書けない。
最後の、「文庫版のあとがき」も良い。
最近の若者は、食べログのランキングで目星をつけ、グーグルマップを見ながら目的の店に一直線にやってくる。それは、もったいないことだ、という。よくある老人の繰り言かと思いきや、著者は言う──
私がもったいないと思うのは、失敗が許される機会に、失敗をする経験を逃してしまうことなのだ。
(25/08/22読了 25/10/09更新)