読書日記 2011年

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内部被曝の脅威 肥田舜太郎・鎌仲ひとみ ちくま新書 ★★★★☆

医師である著者の肥田舜太郎氏は、1917年の生まれである。28歳の時、広島郊外で被爆し、キノコ雲を見る。はじめは重症患者の治療に当たるが、やがて、ピカ(閃光)に遭っていない、爆発の数日後に広島市内に入った人たちが、頭髪が抜け、血を吐きながら死んでいくのを目の当たりにする。被爆後何十年も経っても、原爆の後遺症である「ぶらぶら病」に苦しめられる人もいる。著者は、こうした患者と向き合いながら、60年にわたって内部被爆の研究に携わってきた。

微量の放射線が人体に与える影響については、諸説がある。しかし、仮に著者の主張のすべてが正しいとは限らないとしても、本書は自身の直接の体験に基づいているため、説得力がある。とりわけ、第2章には圧倒される。

占領米軍は被爆者を集めて検査を行ったが、治療は一切行わず、死亡者は解剖されて臓器はすべてアメリカに送られた。日本人による原爆症の調査、研究は一切禁止された。アメリカはまた、原爆投下前に、プルトニウムを人体に注射するという人体実験も行っていたという。

現在でも、内部被曝を正確に測定する装置はない。著者は、「少しの放射線は心配無用」という「閾値仮説」に反対し、近藤宗平氏の『人は放射線になぜ弱いか』を批判している。また、「自然放射線も人工放射線も人体に与える影響は同じ」という仮定にも異を唱える。なぜならば、天然に存在するカリウム40はすぐに排出されるが、人工の放射性物質は特定の臓器に濃縮されやすいからだ(ヨウ素131は甲状腺に集まり、ストロンチウム90は骨に沈着する)。それにしても、被爆した著者がまだ元気で存命だというのは驚きで、放射線に対する耐性が人によっ大きく異なることを示している。

もう一人の著者、鎌仲ひとみ氏は「ヒバクシャ」というドキュメンタリー映画を制作している。ヒバクシャは、世界中にいる。イラクでは湾岸戦争後に白血病の子供が急増したが、それは米軍が使用した劣化ウラン弾によるものと考えられる。また、アメリカ・カリフォルニア州ハンフォードにはプルトニウムの生産工場があり(長崎に投下された原爆もここで製造された)、その風下地区では多くの人が放射線障害に苦しめられている。この地区で生産されたジャガイモはマクドナルドのポテトになり、一部は日本にも輸出されたという。

核エネルギーを利用することの問題点は、放射線という「毒」が発生することだ。核兵器を使用しなくても、核兵器を保有しようとしたその瞬間から、被曝は始まっている。ウラン鉱山でのウランの採掘に始まって、兵器を製造する過程で、莫大な数の人たちが被曝させられる。けれども、どこの国家も、決してそのことを認めようとはしないのである。(11/12/29読了)

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