読書日記 2025年

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世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史 ★★★★☆ スティーブン・ジョンソン 朝日文庫

こういう、特定のテーマを縦糸にして、世界史(人類史)を鳥瞰するような本が好きである。
ものすごい情報量。1ページ毎に知らないことが書いてあった。
話題がアメリカに偏っているきらいはある。でも、だからこそ、さながらアメリカの産業技術博物館を見学しているかのようだった。
実際この本は、シリーズ物として放映されたテレビ番組の取材を元にしているらしい。文章は映像的で、翻訳もこなれていて読みやすい。

本書は6つの革命の物語からなるが、その一つ目はガラスである。
ガラスの主成分は二酸化ケイ素であり、地球上にごくありふれた物質だ。この物質は、一度融解させてから急速に冷やすとアモルファス(非晶質)になるという特徴がある。また、電子のエネルギーギャップが非常に大きいため、光が透過して透明になる。
だが、融点が1713°Cと高く、人類が二酸化ケイ素を自在に加工できるようになるためには、高性能の炉の開発が必要だった。
コンスタンティノープル陥落後、トルコに住んでいたガラス職人は、イタリアのブラーノ島に強制移住させられた。そこでイノベーションが起き、添加物を加えることで透明度の高いガラスの製造が可能になった。こうして、教会や家の窓がガラスで飾られるようになった。
次いで、ガラスをレンズ(レンズの語源は「レンズ豆」であり、その逆ではない)の形に加工することで、眼鏡が発明された。グーテンベルクの印刷術により庶民が日常的に文字に触れるようになり、その結果、自らが老眼であることを「発見」するに至る。このことが、眼鏡の普及をもたらした。
さらに顕微鏡と望遠鏡が発明され、人類の理解はミクロとマクロの両方の世界へと拡張していく。
ガラスの新しい利用法として、非常に細いガラスの繊維、グラスファイバーがある。束ねたグラスファイバーの中にレーザー光を透過させてデジタル情報の伝達に用いるのが光ファイバーで、これは現代のネットワーク社会の根幹をなす技術である。

新たな技術が発明されると、結果的に、発明時には予想もしなかった社会の変化が引き起こされることがある。
著者はこの現象を、カオス理論の用語である「バタフライ効果」をもじって、「ハチドリ効果」と呼んでいる。ハチドリ効果は普遍的な現象で、それが本書に登場する6つの革命を貫くテーマでもある。

それから、発明とは「一人の孤高の天才があるとき突然閃くもの」というイメージで捉えられがちだが、それは大間違いだ。
電球の発明者といえば、誰もがトーマス・エジソンを思い浮かべるだろう。しかし、実はエジソン以前にも、何十人もの発明家によってほとんど同じ原理の白熱電球が発明されていた。(ちなみに、電球が発明される前、人工光といえば鯨油ロウソクだった。このためにクジラは乱獲され、絶滅寸前にまで追いやられた。)
ではなぜ、エジソンは成功を収めることができたのか?
本書によれば、エジソンの最大の業績は、「チームをクリエイティブにする方法を解明した」(あるいは「発明のためのシステムを発明した」)ことにあるという。エジソンは多様なバックグラウンドをもつ技術者を集め、失敗を受け入れる環境と成功に見合った金銭的報酬を用意したのだ。
発見とは、機が熟してくると──本書の言葉では「隣接可能領域に入ると」──同時多発的になされるものなのだ。(25/07/07読了 25/12/17更新)

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